• 電気通信大学、プログラミング教室、東京都調布市

森畑明昌『Pythonによるプログラミング入門 東京大学教養学部テキスト アルゴリズムと情報科学の基礎を学ぶ』 (東京大学出版会)

評者 宮澤修

 題名にもある通り,元々この本は東京大学の教養学部生向けに書かれたものである.文系理系関係なく,東大に入った学生はこの本を通してプログラミングを学ぶ.その為,この本は良くあるプログラミング入門書とは異なるアプローチをとっている.

 巷にあるプログラミング入門書の多くは,対象とするプログラミング言語の仕様について網羅的に解説する.一方本書では,言語の仕様については深追いしない.例えば,Pythonの入門書ならばほぼ必ず登場する「クラス」は,この本には言葉こそ出て来るものの,本格的には使わない.

 代わりに本書の内容を大きく占めるのは,プログラミングを用いた統計やシミュレーションについての解説だ.内容は成績の集計,放物運動のシミュレーション,データの分類など多岐にわたる.どれも基礎になっているのは高校物理や高校数学の知識である.この本の中でも解説があるので,文系の学生でも理解できる.裏を返すと,高校で学んだ物理や数学の知識が,実際の統計やシミュレーションに利用できることを,プログラミングを通して実感できる.

 また,計算量やモジュール化等,実用的なプログラムを作る際に必要になる考え方も知ることができる.おかしな計算結果が出力されるのを目の当たりにして,コンピュータは万能ではなく,むしろ答えを間違えやすいものだと体感できる.

 著者は本書を通して,「コンピュータは何が得意で何が不得意なのかを知ってもらうこと」,それを経て「コンピュータと関わっている人たちに仕事を依頼する際に,やりとりがスムーズになること」を目指しているという.情報科学に関わる者は,皆この目標を持つべきだと私は考える.

 インターネット上では,コンピュータやネットワークの仕組みについて不案内な人(特に企業経営者や政治家,教員が対象になる事が多い様に見える)に対して,コンピュータに関わる人がそれをあげつらったり,馬鹿にしたりする傾向が強いと感じる.非常に残念なことに,当教室の受講生も,コンピュータの知識がついてくると同じ傾向が出てくる様に思う.
(19/10/31 追記)
なお,この傾向があるのは受講生のごく一部であって,大多数の受講生はそうではないということを追記しておく.
(追記ここまで)

 しかし,他人の無知をいくら貶したところで,その人はいつまでも無知なままだ.そしてコンピュータと関わる者は,そういった無知な人の,無知から来る無茶な要求に苦しめられ続けることになるのだ.

 

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