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中野剛志『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』 (KKベストセラーズ)

評者 宮澤修

 この本は,お金や税金といった経済の基礎について,易しい言葉で解説したものである.多くの人が経済や国の財政について抱いている誤解を解きながら,一般人のみならず,実は経済学者の多くも勘違いをしていることを指摘する.

 平成に入ってから日本の経済が停滞しているのは,国の経済政策が間違っているからであると著者は言う.そして,その間違いの原因の一つは,民間企業の運営と国の経済運営を混同していることにあると述べる.

 「国の借金(国債)が沢山あって大変.このままでは破綻する」というのは,良く言われる言説である.しかし,日本政府が円建ての国債を返せなくなることはない.自分で日本円を発行できるからである.民間企業は円を発行できないので,収入から借金を返すしかない.しかし,日本政府は円を発行できるので,必ずしも収入から借金を返す必要はない.民間企業と政府を同様に考えてはいけないのだ.

 「国債を返せなくなることがないのなら,国は無限に国債を出して,無限にお金を使える」と考えそうになる.しかし,そうではない.国が様々な物事にお金を出して買いまくれば,人手不足や物資不足になり,物価が上昇する(インフレになる).それでも国が激しくお金を出し続ければ,物価の上昇率(インフレ率)はどんどん激しくなってしまう.国の財政を考える時に気にすべきなのは,国債の額ではなく,インフレ率と,国全体の供給能力(人手や物資)なのだ.

 「国債が沢山あっても良いなら,税金はいらない」ともならない.消費にかかる税金を重くすれば,消費を抑えて,インフレ率を抑えることが出来る.減税をすれば逆のことになる.税金は財源を確保する為のものではなく,物価を調整する為のものなのだ.また,二酸化炭素の排出を抑えたければ炭素税をかけるといった,政策の手段としても使うことが出来る.

 「国の財政を考える時に気にすべきなのは国債の額ではない」という主張は,タイトル通りに目からウロコが落ちるものだった.良く「見聞きしたことを鵜呑みにせず,疑ってかかることが大事だ」という話を聞く.しかし,この本を読むことを通して,「疑ってかかる」のはとても難しい事だと感じた.私の記憶では,2000年代初頭には既に「国の借金が沢山あって大変.このままでは破綻する」という話がされていた.あれから15年以上経ち,国債の残高は当時の約1.6倍(注1) になったにも関わらず,破綻はしていない.本来なら,この時点で「国の借金が沢山あって大変」という話自体を疑うべきなのに,私は他人から指摘されるまで疑おうとはしなかった.

 「疑い深い人間になろう」とどんなに頑張ったところで,私は今後も人の話を鵜呑みにする事があるだろう.だから,「自分は話を鵜呑みにしがちな人間だ」と認めることにする.そうすれば,たまには「自分は今,見聞きした事を鵜呑みにしている」と気付けるかもしれない.

 

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1) https://ecodb.net/country/JP/imf_ggxwd.html にある「日本の政府総債務残高の推移」の2001年と2018年の値を比較.